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前橋地方裁判所 昭和55年(ワ)365号 判決 1985年11月12日

原告

嶋方光夫

右訴訟代理人

角田義一

山田謙治

出牛徹郎

若月家光

高田新太郎

高坂隆信

飯野春正

野上恭道

野上佳世子

大塚武一

白井巧一

金井厚二

広田繁雄

富岡恵美子

吉村駿一

小林勝

小野寺利孝

山下登司夫

二瓶和敏

戸張順平

服部大三

友光健七

畑江博司

滝澤修一

仲山忠克

花岡敬明

堀野紀

高山俊吉

安田寿郎

山本高行

土田庄一

堀敏明

難波幸一

被告

前田建設工業株式会社

右代表者

前田又兵衛

右訴訟代理人

桑田勝利

堀家嘉郎

松崎勝

主文

一  被告は、原告に対し、金二四五五万二八〇三円及び内金一〇〇〇万円に対する昭和五六年一月二〇日から、内金一四五五万二八〇三円に対する昭和五九年七月二五日から各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを三分し、その二を原告の負担とし、その一を被告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し、金八八〇〇万円及び内金である別表一1ないし20差額欄記載の合計三四五二万五四六二円については同1ないし20差額欄記載の各金員に対する同1ないし20遅延損害金欄記載の各期日から、内金三八〇〇万円に対する昭和五六年一月二〇日から、内金一五四七万四五三八円に対する昭和五九年七月二五日から、各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一請求原因

1  当事者

(一) 被告は土木建築工事の請負等を目的とする株式会社である。

(二) 原告

(1) 原告(大正一四年四月一日生)は、昭和一六年に尋常高等小学校を卒業し、親類の店舗で働いたのち、翌一七年徴用により陸軍造兵廠に配属され、昭和二〇年八月除隊となり、昭和二四年から昭和二九年二月まで大分県に本店をおく大和土建株式会社の作業現場において発電所の水路(トンネル)掘削作業に従事した。

(2) その後、同月から昭和三八年までの間、次のとおり、被告に雇傭されてずい道掘削作業に従事していたものである。

① 昭和二九年二月から昭和三〇年三月まで 長野県平作業所

② 昭和三〇年四月から昭和三二年二月まで 兵庫県矢田川作業所

③ 昭和三二年三月から昭和三三年一二月まで 福岡県城山作業所

④ 昭和三四年一月から昭和三五年三月まで 島根県周布川作業所

⑤ 昭和三五年四月から昭和三七年三月まで 神奈川県弁天山作業所

⑥ 昭和三七年四月から昭和三八年八月まで 滋賀県関ケ原作業所

2  ずい道掘削工事の労働実態

原告は、ずい道掘削の最先端である導坑作業員として従事していたが、その工事の実態は次のとおりであつた。

(一)(1) 当時の一般的な方式である底設導坑先進掘削が採用されており、その方式は、トンネル断面の一部(底部)を先進的に掘削し(導坑)、その後上部(上半)、側部(大背、土平)を切り広げるものであつて、右先行工程である導坑作業においては、削岩(削岩機によりダイナマイト装てん用の小孔をせん孔する。)、爆破(ダイナマイトを爆破させ、導坑断面の岩石を崩落させる。)、換気(爆破後直ちに送気管により圧さく空気を送り出し、粉じんやガスを後方に送り出し、又は拡散させる。)、ずり出し(崩落した岩石を後方へ送り出す。)、支保工建込み(完全覆工までの間、地山のゆるみを防止するための支保工を組み立てる。)の工程が繰り返された。

(2) ずい道工事は、鉱山における採掘作業と並んで、最も高濃度で閉鎖的な粉じんの発生する作業であるが、なかでもその最先端を掘進する前記工程の削岩、爆破、ずり出し等の工程を通じて最も過酷で、多量の粉じん(土砂、岩石粉)、発破ガス等がたちこめ、時には五〇センチメートル先も見えないような状態の中で作業せざるを得ない有様であり、換気工程でさえ、後方に排出される粉じんは少量で、結局これを拡散させるだけのものであつて、坑内では常におびただしい粉じんに曝露された。

(二) (イ)労働時間は、労働契約上実働八時間とされていたものの、実際には昼方(午前七時から午後七時まで)・夜方(午後七時から午前七時まで)の二交替性の一二時間労働であり、さらに一〇日ごとの昼番と夜番との交替時には、空き時間をなくすため各番方が六時間ずつ延長・早出をすることにより一八時間労働を強いられ、また、(ロ)休日についても、労働契約上日曜日が休日とされていたものの、現実には月一日だけであり、さらに、(ハ)賃金が班に対して出来高に応じて支払われ、これが個人に配分されるシステムがとられていたために、作業員は長時間労働や休日出勤を余儀なくされる状態であつて、かくて、原告は不当に長時間坑内の粉じんにさらされた。

3  原告のじん肺罹患

(一) じん肺

(1) じん肺とは、各種粉じんの吸入により生ずる肺疾患である。粉じんを吸入した結果、肺内に排出不可能な粉じんの付着・滞留が生じ、①リンパ腺の粉じん結節、②肺野のじん肺結節、③気管支炎・細気管支炎・肺胞炎、④肺組織の変性・壊死、⑤肺気腫、⑥肺内血管変化の病変が一連のものとして発生、進行し肺機能が害される。

(2) その特徴としては、次の三点である。

第一は、不可逆性である。早期の気管支炎のみの段階で治療を行なえば治療効果があがり、じん肺が防止できるが、一旦肺に生じた線維増殖性変化、気道の変化である慢性気管支炎、肺気腫の変化は治療によつても元の正常な状態に戻ることがない。

第二は、慢性進行性である。右の疾患は、粉じん職場を離れても、進行しつづける。この進行速度を決定する要因は、粉じんの吸入量とその質(けい酸分の多い場合には肺の線維化が強くあらわれる。)である。

第三は、全身疾患である。慢性の気管支炎を伴い、肺気腫をひき起すことにより、肺の血管を障害し、心臓の負担を増大してその衰弱を生ぜしめる(肺性心)。また、現行じん肺法施行規則では、肺結核、結核性胸膜炎、続発生気管支炎、続発性気管拡張症、続発性気胸の五つの合併症があげられているが、これ以外に各種の肺炎、各種の癌が高い頻度で伴うだけでなく、心不全、消化管潰瘍等を発生させることが多い。

(3) その基本症状は、最初の自覚症状として呼吸困難、息切れであり、次いで、咳、痰があらわれる(但し、気管支炎の合併のある場合は、息切れの前に咳、痰を認めることがある。)。症状が進行すると、必ず酸素吸入を常時やらなければならない状況が必然的に起つてくる。

(4) じん肺患者の死因は、典型的に進行したときは、肺性心であるが、その途中で、各種の炎症、気管支炎、気管支肺炎で死亡する例が一番多い。

(二) 原告は被告の前記各作業所において粉じんを吸入した結果、じん肺(けい肺)に罹患した。その経緯と症状は次のとおりである。

(1) 原告が右作業所に従事した当初は全く身体・健康に異常がなかつたが、昭和三五年ころから作業中息切れを感じるようになり、その後も汗ばかりかく等の症状も加わり、原告自身身体が不調であると自覚するにいたり、稼働能力も劣つてきた。そして昭和三八年八月にはかかる状態と、上司とのトラブルが原因となつて被告を退職することを余儀なくされた。原告は、体力低下のため坑夫の仕事はもはや無理と判断し、二か月程休養した後左官店に就職したが、昭四〇年ころには材料の攪拌、運搬などの力仕事に苦痛を伴うようになり、昭和五〇年ころにはその手伝い程度の仕事しかできなくなつた。そのため、原告は転職を考え、昭和五二年二月には左官店を退職してタクシー会社に就職した。ところが同年八月咳の発作により追突事故を起こし、その後も咳の発作が々あつたため、同年一〇月やむなく同社を退職した。そして同年一一月専門医の診断を受け、これに基づき同年一二月一二日じん肺法一五条(昭和五二年法律第七六号による改正前のもの)によるじん肺健康管理の区分の決定の申請をなし、昭和五三年一月六日群馬労働基準局長により同区分管理四(要療養)と決定された。

(2) 原告は以後医師の「働くな、働けば死んでしまう。隠居しろ。」との指示を守り、毎週一回の通院を継続し、療養の生活に専念しているが、なおじん肺の症状は悪化しつつある。エックス線写真における肺の大陰影の区分は4のCとなり、全身的症状も増悪して、肺活量等が著しく低下し、不整脈の発生、僅かの動作によつても呼吸困難、咳の頻発を生じており、したがつてまた、会話、外出、行動をさし控えて安静を保つており、もとより稼働は不可能である。

4  被告の責任

(一) 予見可能性

じん肺は、古典的な職業性疾患であり、粉じん労働により発生することはすでに戦前から知られていた。すなわち、外国においてはすでに古代ローマ時代に、わが国においても延宝年間に鉱夫の疾患として指摘されていたところであり、近代的医学研究も一八九〇年代の南ア金山のけい肺研究にはじまり、ILOもその対策につき一九三〇年以来国際会議を継続している。わが国においても、戦前から研究がなされ、戦後は労働省が昭和二三年に金属鉱山労働者に対するけい肺一斉検診を実施した結果その対策が急がれ、昭和三〇年には、けい肺健康診断の実施とこれによるけい肺症度の認定、一定の罹患者についての労働基準局長による作業転換の勧告、療養給付等の実施などを内容とする「けい肺及び外傷性せき髄障害に関する特別保護法」(昭和三〇年法律第九一号。以下「けい肺等特別保護法という。)が、さらに昭和三五年には、対象を鉱物性粉じんによるじん肺に広げ、労使双方に予防措置の努力義務を規定したほか、施策をより充実させた「じん肺法」(昭和三五年法律第三〇号)が成立するにいたつた。その間、トンネル工事従事者のけい肺患者の多発も多くの調査・研究の結果明らかとなつていた。

(二) 被告の義務違反

被告は、原告を雇傭し粉じん作業に従事させていた使用者として、原告のじん肺罹患を防止すべき労働契約上の安全配慮義務又は不法行為法上の注意義務を負つていたものというべきところ、以下のとおり、これを怠り、原告をじん肺に罹患させた。

(1) 粉じん発生防止・抑制義務違反

導坑作業においては、前記のとおり、削岩・爆破・ずり出しの各工程において多量の粉じんが発生し、支保工建込みの時にすら、微細な浮遊粉じんは依然として漂つていた。したがつて、その発生等の防止に努めるべきであるのに、これを怠つた。

(イ) 被告の使用していた乾式削岩機では削岩に際して大量の粉じんが坑夫の顔面や身体に向かつて吹き出したが、すでに昭和二八年以前から他の企業で使用されていた湿式削岩機ではその機能、すなわち、のみの中の細い管を通じてその先端から水を噴出させて粉じんを泥状にして流し出す構造のため、削岩に際しての粉じん発生を抑制できるものであつたところ、被告は昭和三一年ころからはじめてこれを使用するようになつたにすぎず、しかも、その使用後もこれに対する給水が不十分であつたため、々空ぐりにより多量の粉じんを発生させた。

(ロ) 発破後の粉じんを坑外に排水する装置としては、大型の集じん機に結合したホースを坑外まで引き、坑内の粉じんを坑外にまで自動的に排出する装置(ブロアーと呼称されていた。)があり、これは排気手段として極めて有効なものであつて、遅くとも昭和三〇年ころから他の企業で使用されていたにも拘らず、被告においてはこれを使用せず、単に圧さく空気を発破付近にホースで吹きつけるという方法をとつたのみであり、これでは坑内の粉じんを薄めることが出来ても坑外にこれを完全に排出することは不可能であつた。

(ハ) 発破後に散水を行うことは、浮遊粉じんを除去し、ずり出しの際の発じんを抑制するのに有効であるが、被告はこれを徹底して行わなかつた。

(2) 体内侵襲防護義務違反

粉じん発生防止・抑制が十分になされない場合、せめてこれが体内へ侵襲することを防止する措置が必要であるのに、これを怠つた。

(イ) ろじん能力の高い防じんマスクを耐用期間を考慮して、適宜支給すべきであるのに、効果の劣る簡易なマスクを各労働者毎に一現場につき一個しか支給せず、ろ過材であるスポンジすら支給しなかつた。またマスクはその手入方法によつて防じん効果も違つてくるので、その使用方法、保守管理などについて適切な指導をすべきであるのに、保守管理を指導することもなく、その着用についても単に粉じんがひどいときにはマスクをするよう指示した程度で、十分な指導を行わなかつた。

(ロ) また、粉じんの吸入を少なくするため、労働時間を短縮するなど労働条件を改善すべきであるのに、前記のとおり、被告は何らの措置もとらず、一二時間労働を恒常化させ、そして一〇日毎の交替時には労働基準法違反の一八時間労働をなさしめ、休日もほとんどないという、違法、不当な長時間労働を強制した。

(3) 健康管理義務違反

じん肺罹患者に対しては、軽症の段階で配置転換等の適切な措置をとる必要があり、定期健康診断等の実施によりこれを早期に発見することが必要であるのに(けい肺等特別保護法・じん肺法においては、就業時及び三年に一回のけい肺((じん肺))特別健康診断が義務づけられている。)、被告においては、健康診断を厳格に実施せず、原告に対しじん肺健康診断を実施したのは関ケ原作業所のときの一回だけであり、原告の罹患を早期に発見することもできなかつた。

(4) 安全衛生教育義務違反

マスク着用の励行やじん肺罹患者の早期発見のためには、労働者自身のじん肺に対する十分な理解が必要であり、そのためにはじん肺発生のメカニズムやその防止方法等についての安全衛生教育を行う必要があるのに、被告は、単にほこりがあるときはマスクをするよう指示することや、食堂にじん肺予防のため防じんマスクを着用するようにとの趣旨を記載したポスターを張つた程度のことをしたにすぎず、十分な安全衛生教育を行わなかつた。

5  損害

原告は前記じん肺の罹患により、以下のとおりの損害を蒙つた。

(一) 逸失利益

原告は、被告を退職するまで、特殊な技術を要求されるトンネルの導坑の坑夫・工長として、他の坑夫らよりも高い賃金を得ていたものであり、その賃金が、当時の男子労働者の平均給与額を上回るものであつたことは明らかであるから、逸失利益の算定は、賃金センサス第一巻・第一表「産業計・企業規模計・男子労働者・学歴計」によるべきである。

原告がじん肺に罹患したため被告を退職した後である昭和三九年から昭和五二年までの現実の収入は別表一「原告の現実の収入額」欄記載のとおりであり、昭和五三年一月に管理四と決定された後は稼働能力を一〇〇パーセント喪失したものであるから、その六七才までの逸失利益(昭和五九年以降については、昭和五八年の賃金センサスによる金額に基づき、新ホフマン方式により、現価に換算)は、別表一合計欄記載のとおり、五九九六万二二九七円となる。

(二) 慰謝料

原告は、前記3記載のとおり、じん肺に罹患したことにより、長年月にわたり息苦しさをはじめとした呼吸障害その他の全身的な身体障害を蒙り、現在の症状が重篤であり、日常生活、社会生活が破壊されているばかりでなく、さらに症状が悪化する状態であつて、常時死の不安に怯えさせられている。

また、原告は収入の道を断たれたばかりでなく、逆に療養関連費用をはじめ、じん肺罹患に伴う支出、負担を強いられ、妻に働いてもらい、労災補償で辛うじてその生計を維持している。

さらに、原告の家族は、日夜を問わず原告の看病に手をとられているため、その過労から原告と家族間に軋轢を生ずることもたびたびである。

右の各事情等からすれば、原告の精神的苦痛を慰謝すべき金額は三〇〇〇万円を下らない。

(三) 請求損害額

右逸失利益五九九六万二二九七円のうちの五〇〇〇万円と慰謝料三〇〇〇万円の合計八〇〇〇万円を請求する。

(四) 弁護士費用

原告は原告訴訟代理人らに対し、右請求損害額の一割相当額である八〇〇万円を本訴第一審判決言渡時に支払う旨約した。

6  よつて、原告は、被告に対し、労働契約上の安全配慮義務の不履行又は不法行為による損害賠償請求権に基づき、(1)前記損害金(5の(三))八〇〇〇万円と、(2)弁護士費用八〇〇万円及び右(1)の内金である別表一1ないし20差額欄記載の合計三四五二万五四六二円については同1ないし20差額欄記載の各金員に対する同1ないし20遅延損害欄記載の各期日から、右(1)の内金三〇〇〇万円(慰謝料)と右(2)の八〇〇万円の合計三八〇〇万円については本件訴状が被告に送達された日の翌日である昭和五六年一月二〇日から、右(1)の内金一五四七万四五三八円(将来の逸失利益)については請求の趣旨変更の申立書が被告に送達された日の翌日である昭和五九年七月二五日から、各支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二請求原因に対する認否

1  請求原因1(一)の事実は認める。

同(二)(1)の事実は知らない。

同(2)の事実中、被告が原告を雇傭した期間については否認し、その余は認める。

原告が被告に雇傭されたのは、次のとおり、期間・作業所毎に六個の雇傭契約によるものである。

(1) 昭和二九年二月から昭和三〇年三月まで 平作業所

(2) 昭和三〇年四月から昭和三二年二月まで 矢田川作業所

(3) 昭和三二年三月から昭和三三年九月まで 城山作業所

(4) 昭和三四年一月から昭和三五年三月まで 周布川作業所

(5) 昭和三五年四月から昭和三六年一〇月まで 弁天山作業所

(6) 昭和三七年四月から昭和三八年三月まで 関ケ原作業所

2  請求原因2について

(一) 冒頭掲記の事実中、原告が導抗作業に従事していたことは否認する。

同(一)の(1)の事実は認める。

同(2)の事実は否認する。

原告は、斧指として支保工建込などに従事していたもので、導抗における作業を行うようになつたのは、昭和三七年一二月の工長になつてからのことである。

(二) 同(二)の事実中、労働時間が労働契約上実働八時間とされ、休日が毎日曜日とされていたことは認めるが、その余は否認する。

労働時間は昼方(午前七時から午後五時まで、休憩二時間)・夜方(午後七時から午前五時まで、休憩二時間)の二交替制であり、残業のときは各二時間ずつ延長される。昼方・夜方の交替は概ね一週間から一〇日毎に行つていた。

作業員の月平均出勤日数は二一日前後である。作業員は日曜日を定期的に休むのではなく、工事の都合や作業員の希望により休日出勤する場合があるし、自己の都合に合わせて適宜休みをとるのが一般的であつた。

賃金については、抗夫の場合、出来高給方式(団体出来高×単価((切羽における作業サイクル総てを含む支保工一基当りの金額))を基準として各個人の労働時間に応じて算出した「個人出来高」+時間外手当て+休日手当て+深夜手当て)であるが、これは他の一般職種(土工、運転工)の給与方式(基本給((日額))×出勤日数+時間外手当て+休日手当て+深夜手当て)よりも高いものであり、ただ地山の状態により掘削が進まず出来高が少ないときにのみ、右一般職種並みの給与方式によつた。

3  請求原因3について

(一) 同(一)の事実は争う。

(二) 同二の事実中原告がその主張のころ被告を退職したこと、昭和五三年一月六日管理四に決定されたことは認めるが、その余の事実は争う。

なお、原告は上司との金銭上のトラブルが原因となつて退職したものであつて、当時じん肺の症状は全く存在せず、退職とじん肺症状とは無関係である。

4  請求原因4について

(一) 同(一)の予見可能性の主張は争う。

じん肺に罹患するため肺胞内に蓄積する粉じんの最低必要量は、医学上確定されておらず、また同一の粉じん環境で同一の作業に従事した者でもじん肺に罹患するか否かは各自の体質に大きく左右されるものである。したがつて、原告のじん肺罹患について過失ありとするには、原告の発病を認識しうべき健康異常があつたのに、これを看過したという場合であることを要すると解されるところ、後記4(二)の(3)のとおり被告において健康診断を実施していたが、原告には右異常はなんら認められなかつた。

また、原告が被告のトンネル掘削工事に従事していた当時においては、粉じん作業から離職した後もじん肺の症状が進行することは、医学上認識されておらず、その進行性が専門家の間で論じられるようになつたのは昭和四〇年以降のことである(このことは、乙第七ないし第一〇、第一四号各証等により明らかである。)。したがつて、離職後の症状進行による原告の労働能力喪失の結果は、当時、被告にとつて予見することは不可能であつたから、被告に過失はないし、また右損害は相当因果関係がない。

(二) 同(二)の安全配慮義務又は注意義務違反の主張は争う。

(1) 粉じんの発生について

削岩作業は、水を注入しながら行われており、粉じんの発生は抑制されていたし、トンネル内は地下水の湧出があるのが一般的であり(時には掘削作業を中断して、水抜ボーリング等の減水対策を行うほどである。)、この場合は削岩による粉じんの発生はない。

爆破時の粉じんは、直接抑制する方法はないが、発破時には切羽において圧さく空気のパイプを全開して空気を噴出させながら発破を行い、発破後もしばらく噴出させて換気を行い、粉じんがおさまつてから次の作業に移る方法を実行していた。

(2) 防じんマスクについて

被告は、坑内作業員に対し、当時の国家検定合格品である「サカイ式防じんマスク」(湿式と乾式の二種類があつた。)の湿式のもの(ろ材はスポンジ製で湿度の高い坑内に適し、ろ材は水洗いして再び使用する。)を主として支給し、作業時には着用するよう指示していた。

(3) 健康管理について

被告は、原告の在職中、労働基準法、けい肺等特別保護法、じん肺法に基づき、次のとおりの健康診断を実施していたが、原告にはなんら異常は認められなかつた。

① 昭和三〇年から昭和三四年まで

(イ) 年二回の定期健康診断

(ロ) 就業時のけい肺健康診断

(ハ) 三年に一回のけい肺健康診断

(ニ) けい肺第二症度又は第三症度の者に対し、年一回のけい肺健康診断

② 昭和三五年から昭和三八年まで

(イ) 年二回の定期健康診断

(ロ) 就業時のじん肺健康診断

(ハ) 三年に一回のじん肺健康診断

(ニ) 健康診断管理の区分が、管理二又は管理三の者に対し、年一回のじん肺健康診断

(4) 安全衛生教育について

被告は、防じんマスク支給時にその着用を指示するとともに、粉じんを吸入すれば将来けい肺になることを教育していた。

5  請求原因5について

(一) 同(一)の事実は争う。

前記のとおり、原告が被告を退職したのは上司との金銭上のトラブルが原因であり、じん肺罹患とは無関係であつて、これは昭和四八年八月の健康診断の際原告に自覚症状がなかつたことからも明らかであるから、昭和三九年から昭和五二年までの逸失利益(原告の再就職先の収入との差額分)の主張は理由がない。

また、右事情からすれば、昭和五三年以降の逸失利益の算定については昭和三九年から昭和五一年までの原告の現実の収入額(別表一「原告の現実の収入額」欄)を基礎とすべきであり、賃金センサスによるとしても、原告の学歴(尋常高等小学校卒)、当時の職業(左官店勤務)等に照らし、「建設男子生産労働者、小学・新中学卒の平均賃金」を基礎とすべきである。

(二) 同(二)、(四)の事実はいずれも争う。

三抗弁

1  時効

原告主張の各損害賠償請求権は、以下のとおり消滅時効が完成しているので、被告は各時効を援用する。

(一) 不法行為に基づく請求について

原告は、昭和五二年一一月八日じん肺健康管理の区分決定の申請のため被告に粉じん作業職歴証明書の作成を求め、同日被告からその交付を受けた。したがつて、右の日までに、原告が被告事業所における作業によつてじん肺に罹患したことを認識していたことは明らかであり、また、原告が本訴において主張する労働環境の管理の違法性についても、その下で労働に従事していた原告に認識があつたことは明らかである。

よつて、右の日の翌日から三年を経過した昭和五五年一一月八日には時効が完成した。

(二) 債務不履行に基づく請求について

雇傭契約上の安全配慮義務の不履行による損害賠償請求権は、遅くとも雇傭契約終了の日の翌日からその時効が進行すると解されるところ、原・被告間の雇用契約は商行為によるもの、したがつて右に付随する安全配慮義務も商行為とみるべきであるから、原・被告間の六個の雇傭契約の終了の翌日からそれぞれ五年の経過により時効が完成し、遅くとも最終の雇傭契約終了の日の翌日である昭和三八年九月一日から五年を経過した昭和四三年八月三一日に、仮に商事債権でないとしても、右の日から一〇年を経過した昭和四八年八月三一日に時効が完成した。

2  除斥期間

本訴提起をした昭和五五年一二月二三日より二〇年前である昭和三五年一二月二二日以前の被告の行為に基づく不法行為責任については、民法七二四条後段の除斥期間の経過により消滅している。そして、原告が同日以降従事した弁天山、関ケ原の各ずい道掘削作業は、いずれも水分を多量に含む地質のため粉じん量は極めて少なく、これに起因して原告が発病したものとは解し得ないから、被告に不法行為責任はない。

3  過失相殺

原告は、戦時中兵器工廠に勤務した際発射薬吸入による肺疾患のため入院治療をした経験があり、自己の肺機能の健康管理はより十分に行うべきであるのに、就労中、湿式削岩機を使用するに際し用水不足のため空ぐりをし、あるいはマスクの適切な使用を怠るなど有効な発じん・吸じん防止を行わず、また、退職後も昭和五〇年六月の健康診断においてじん肺の疑いをもたれ、痰の提出を求められながら、以後受診しなかつたなど、自らの健康管理を十分に行わなかつた。そして、これらが、じん肺の発病・進行に寄与しているものであるから、相応の過失相殺を行うべきである。

4  寄与率による減額

原告は、昭和二四年ころから昭和二九年まで、大和土建株式会社においてトンネル掘削作業に従事していた。したがつて、右就労も原告のじん肺罹患の原因となつているから、原因供与者が複数の場合の責任公平化を定めた水質汚濁防止法二〇条を類推し、その寄与率をしん酌し減額すべきである。

5  損益相殺

原告は、別表二の期日欄記載の各日までに、期間欄記載の各期間についての事業主負担金、休業補償費、傷病補償年金として、年金額欄各記載の額を、同特別支給金として、特別支給金欄各記載の額をそれぞれ受領している。したがつて、原告の損害額から右年金額欄と特別給付金欄各記載の合計金額一七八六万〇五一三円を控除すべきである(なお、傷病補償年金については、原告が厚生年金保険から同一事由に基づく障害年金を受給しているため、労働者災害補償保険法一八条、同法施行令二条により調整されて原生年金保険との調整額」欄記載の額が減額され、「現実に支払われた年金額」欄記載の額が現実に支給されたにすぎないが、厚生年金保険に加入していないため労災保険のみの給付を受ける者と厚生年金保険と労災保険の両方の給付を受ける者との間に損益相殺の上で法律的差異が生ずる結果となる解釈をすべきでないから、原告の場合、調整前の額が損益相殺されるべきである。)。

さらに、原告は死亡するまで年額二九八万三七〇〇円の労災保険金を受給しうることが確定しているから、原告の平均余命一九・七八年間の年金額を現価に換算した四〇六二万六〇五九円をも損益相殺の対象とすべきである。

四抗弁に対する認否

1  抗弁1について

(一) 同(一)の事実のうち、原告が被告主張の日に粉じん作業職歴証明書の交付を受けたことは否認する。当時までに「損害及び加害者を知つた」旨の主張は争う。

民法七二四条の「損害及び加害者を知る」とは、損害賠償請求が事実上可能なもとに、それが可能な程度に具体的資料に基づいて損害及び加害者を知り、かつ、加害行為が不法行為であることを正確に認識することを意味するものと解すべきである。そして、進行性の疾患であるじん肺については将来の病状の進行の程度を予測することは困難であるから、その進行が止む死亡時までは「損害を知つた」ということはできない。また、じん肺をはじめとする職業病については、企業責任が問われることのなかつた社会状況のもとでは、被告の行為の違法性の認識は困難であり、単にじん肺の症状決定にすぎない健康管理の区分決定の申請をもつて損害賠償請求が可能な程度の違法性の認識があつたものとはいえない。

したがつて、不法行為に基づく損害賠償請求権は未だその時効の進行が開始していないものというべきである。

(二) 同(二)の主張は争う。

被告の負う安全配慮義務は直接雇傭契約に基づくものではなく、信義則上の義務として生ずるものであるから、商事時効期間の適用を受けるものではない。

また、安全配慮義務と、その違反によつて生ずる損害賠償請求権は、その目的・性質・機能を異にするから同一性はなく、右損害賠償請求権は、結果発生により初めて要件が備わるものであり(殊にじん肺においては一〇年以上の潜伏期間後発症する例が多く、損害発生前に消滅時効が完成する不当な結果となる。)、不法行為による損害賠償請求権と性質を同じくし、被害者にとつて現実に損害を知らなければその権利を行使しえないことは明らかであるから、その消滅時効の起算点である「権利を行使することを得る時」とは、民法七二四条と同様に「損害及び加害者を知つた時」と解すべきである。

したがつて、安全配慮義務違反による損害賠償請求権もまた時効消滅していない。

2  抗弁2について

その主張は争う。

原告の損害は、じん肺という進行性かつ広範な健康被害であるところ、加害行為から相当期間を経て損害が発生し、なおその損害が進行・拡大するという進行性損害については、鉱業法一一五条二項を類推し、損害の進行がやんで損害が確定したときから民法七二四条後段の期間が進行すると解すべきであり、本件においては、前記(一3(二))のとおり原告の病状が悪化しつつあつて、未だ損害が確定したとはいえないものである。

また、仮に右期間が加害行為の時から進行するとしても、被告の不法行為は原告が粉じん作業に従事していた期間継続していたもので、全体として一個の不法行為ととらえるべきであるから、右期間は、加害行為の終了した退職時の昭和三八年八月から起算すべきである。

したがつて、いずれにしても、民法七二四条後段の期間が経過したものとはいえない。

3  抗弁3について

その主張事実中、原告が主張の勤務中発射薬を吸入したため、肺疾患により入院治療を受けたこと、主張の空ぐりをさせられたこと、痰を提出しなかつたことは認めるが、その余の事実は争う。原告には過失相殺の原因とされるべき過失はなんら存在しない。

原告は被告の指示どおりマスクを着用していた。なお、その効果が十分でなかつたのは、前記のとおり被告の安全教育の不徹底に基因するものである。

また、痰の不提出についても、じん肺検診とは全く関係のない一般の住民健康診断の際のことであり、病気の発生・進行とは因果関係はない。

4  抗弁4について

その主張事実中、原告が主張のとおり他のトンネル掘削作業に従事していたことは認めるが、その就労の寄与率をしん酌すべきである旨の主張は争う。

原告は、被告の作業所に従事した期間吸入した粉じんによりじん肺に罹患したものであつて、このことは、原告が被告の作業所に従事した当初は全く身体に異常がなかつたことと、原告の疾患がいわゆる亜急進性けい肺(大量の粉じの発生する場所で多量の呼吸を要する強い労働を要する場合、すなわちトンネル作業従事者に多発する。)であることに徴して明らかである。

また、仮に以前の就労が無関係といえないとしても、被告は共同不法行為として全額の賠償責任を免れないものである。

5  抗弁5について

原告が「現実に支払われた年金額」欄及び「特別支給金」欄各記載の労災保険金を受領していること、原告が右同一の期間厚生年金保険の障害年金を受給していることは認めるが、損益相殺の主張は争う。

五再抗弁

仮に、本件不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効の起算点は原告のじん肺症状が専門医に明確に診断された昭和五二年一一月二二日であると解するのが相当であるとしても、原告は昭和五五年一一月一九日到達の書面により被告に対し右損害賠償金の支払の催告をなし、その後六か月内に本件訴えを提起したから、右により時効は中断した。

六再抗弁に対する認否

原告がその主張の日に催告をなしたこと及びその後六か月内に本件訴えを提起したことは認めるが、時効中断の主張は争う。

第三  証 拠<省略>

理由

一  当事者

1請求原因1(一)の事実(被告関係)は当事者間に争いがない。

2同(二)(1)の事実(原告の経歴)は、<証拠>によつて明らかである。

そして、同(2)の事実は、雇傭期間の点を除いて当事者間に争いがなく、この事実と<証拠>によれば、原告は、期間・作業所毎の各別の雇傭契約のもとに、次のとおり、いずれも被告のトンネル掘削工事の作業所で雇傭されており、この間他に勤務することなく、一貫して被告の作業所で働いていたことが認められ、これを妨げるに足りる証拠はない。

(1)  昭和二九年二月から昭和三〇年三月まで(一年二月)長野県平作業所

(2)  昭和三〇年四月から昭和三二年二月まで(一年一一月)兵庫県矢田川作業所

(3)  昭和三二年三月から昭和三三年九月まで(一年七月)福岡県城山作業所

(4)  昭和三四年一月から昭和三五年三月まで(一年三月)島根県周布川作業所

(5)  昭和三五年四月から昭和三六年一〇月まで(一年七月)神奈川県弁天山作業所

(6)  昭和三七年四月から昭和三八年八月まで(一年五月)滋賀県関ケ原作業所

二  原告の従事した粉じん作業の実態

トンネル掘削作業工程が請求原因2(一)(1)のとおりであることは当事者間に争いがなく、この事実と<証拠>によれば、以下の事実が認められ、<証拠>中、後記認定に反する部分はその余の前掲証拠に照らして措信し難く、他に後記認定を覆すに足りる証拠はない。

1原告は、昭和二九年に被告の長野県平作業所で働き始めた当初は坑外における作業に従事していたが、約半年後からは先進導坑の掘削作業を行うようになり、その後昭和三七年一二月に工長(坑内作業の指揮する立場で、被告作業所で世話役とも呼称された。)となつたが、その後も先進導坑における作業に従事していた。

2原告が従事した被告の作業所におけるずい道掘削工事は、当時の一般的な方式であつた底設導坑先進掘削方式によるものであつたが、その工程は、削岩、爆破、換気、ずり出し、支保工建込みを繰り返すものであり、原告も右各作業にたずさわつていたが、その概要は次のとおりであつた。

(一)  削岩

削岩機を用いてダイナマイト装てん用の小穴をせん孔する作業である。削岩機は、コンプレッサーによる圧さく空気により駆動され、これには乾式と湿式の二種類がある。前者はのみの先端から圧さく空気を噴出させ、削岩により生じた岩粉(くり粉)を吹き飛ばす構造であつて、削岩に際して、大量の粉じんが坑夫の顔面や身体に向かつて吹き出した。これに対し、後者はのみの先端から水を噴出させ、粉じんを泥状にして流れ出させる構造であつて、粉じんの発生を抑制できる(但し、岩盤に最初のみを当てるときは、多量に水を噴出させると水が坑夫にはね返つてずぶ濡れとなるため、少量の水しか出せず、そのため粉じんが発生した。)が、原告の従事した作業所においては、矢田川作業所において、昭和三一年ころからこれを使用されるようになつた。またこれを使用するには常に十分な量の水をタンクに貯えておく必要があり、原告が従事していた作業現場においては、岩石の状況や削岩の仕方によつて時折タンクの水が不足することがあり、その際作業進行の必要から水を補給することなく削岩を続け、多量の粉じんが発生することもあつた。

(二)  爆破

削岩機により穿孔した小孔にダイナマイトを装填して爆破し、導坑断面の岩石を崩落させる作業である。ダイナマイトを装填すると、抗夫は、削岩機等の機材を約四〇メートル後退させたうえで、一〇〇メートル程度後ろに避難して爆破を行う。ダイナマイトの爆破により大量の粉じんとガスが発生するが、これを排出して換気を行うため、爆破から約五分後まだ多量の粉じんがたちこめているうちに抗夫三人位が爆破による破損を避けるために後方へ移動していた圧さく空気のホース(ずり込み機に使用するもの)を持つて切羽の四、五〇センチメートル手前まで前進して、二名位でホースが勝手な動きをしないようその先端を押さえ、圧さく空気を噴出させて粉じんやガスを坑口方向に移動させるが、その際に他に散水等の粉じんを除去する作業は行われず、坑夫らは粉じんにさらされた。

(三)  ずり出し

爆破により切り壊されたずりを坑外に搬出する作業である。爆破後約一五分で切羽付近の粉じんやガスが拡散すると、作業が始められ、ずり積み機により、バケットでずりをすくい、これを後方に投じてベルトコンベアによりトロッコに積み込み、坑外に搬出される。その際、殊にバケットでずりを後方に投ずるときには、粉じんが発生した。

(四)  支保工建込み

掘削後、地山のゆるみを防止するため、完全覆工までの間掘削面を支える支保工を組み立てる作業である。この工程においては、前記削岩、爆破及びずり出しの各作業の場合に比し、粉じんは少なかつたが、坑内には発生した微細な粉じんが滞留していた。

以上の各工程は、二ないし三時間ごとに進められるが、その際発生する粉じんは、地質等の条件によつて程度の差はあつたが(弁天山及び関ケ原の各作業所の現場においては、水分を多く含んだ地質であつたため、粉じんの量は他の現場に比して少なかつた。)、いずれの作業所においても、同じように発生していた。

3被告は、各作業所・工期毎に労働者との間に労働契約を締結するが、その際、雇傭期間、労働時間、休日、賃金、各種手当等を約定した。そして、原告の従事した各作業所に関しては、(1)労働時間については、(昼番)午前七時から午後四時半までの実働八時間(但し、時間延長は二時間)と、(夜番)午後七時から午前四時半までの実働八時間(但し、時間延長は二時間)の二交替制で、毎日曜日を休日とすること、(2)賃金については、支保工一基完了を基準とする出来高給と基本給(日額計算)の二本だて(前者による方が高給となる。いずれの場合も、時間外手当て、休日手当て、深夜手当てが加算される。一般職種の土工、鳶工、運転工等は後者の方式によつた。)であり、地山の状態上掘削が進まず出来高が少ないときは、基本給方式によることと定められていた(しかも、この場合の基本日額は右の一般職種の者より高く定められていた。)しかるところ、被告の工事進捗の要請と労働者のより高給取得の要求が相俟つて、現実には、一〇時間労働と日曜日の休日労働がほぼ恒常的に行われ、坑夫が一斉に休日となるのは、一か月に一日(給料日の翌日)にすぎず、しかも、少くとも一〇日毎に昼番と夜番が交替するときには、作業を連続的に行うため、各々実働一六時間労働をなした。

三  原告のじん肺罹患

1じん肺について

(一)  <証拠>によれば、以下の事実が認められ、これを妨げるに足りる証拠はない。

(1) じん肺とは、粉じんの吸入によつて肺に生じた線維増殖性変化を主体とし、これに気道の慢性炎症性変化、気腫性変化を伴つた疾病である。

すなわち、吸入された粉じんは、一部は気管支に付着し、気管支粘膜の上皮細胞のはたらきで痰にまじつて再喀出されるが、肺胞内に達したものは、肺胞壁から出てくる喰細胞によりその体内にとりこまれ、リンパ管を経てリンパ腺に蓄積される。けい酸では、蓄積された粉じんは、リンパ腺の細胞を増殖させ、その結果細胞がこわれて膠原線維が増加し、リンパ線が線維におきかえられることにより、リンパ球の生産をはじめとするその本来の機能が失われる。このようにリンパ腺が閉塞された後さらに吸入された粉じんは、肺胞腔内に蓄積され、肺胞壁を破壊し、そこから出てくる線維芽細胞により肺胞腔内を線維化し、〇・五ないし五ミリメートル以上の大きさの固い結節(じん肺結節)となり、肺胞壁を閉塞する。吸じん量がさらに増加すると、じん肺結節は大きさ、数を増して融合し、塊状巣を形成してその領域の肺胞壁を閉塞するばかりでなく、気管支や血管を狭窄、閉塞して気管支変化を生じさせ、気道抵抗の増大による負担のため肺胞壁が破れて肺胞腔が拡大して肺気腫を生じさせ、肺のガス交換を行う機能を失わせる。また、血管変化により循環障害が継続的に起こり、心負担が増大して心肥大を生じ、心臓を衰弱させる肺性心にいたる。右病変の過程において、合併症を伴うことも多く、現行じん肺法施行規則では、肺結核、結核性胸膜炎、続発性気管支炎、続発性気管支拡張症、続発性気胸が合併症と規定され、その他にも肺炎、各種の癌、潰瘍等の発症が指摘されている。

じん肺に罹患するか否か及びその症状の進行の度合等は、体質(気管支の除じん能力)及び吸じん量に左右される。そして、右の線維化、肺気腫、血管変化は治療によつても元の状態に戻ることはなく(不可逆性)、気管支変化のみが早期の治療に反応する。また、右の病変は、粉じんの吸入のやんだ後も、すでに吸入された粉じんの量及び質に対応して、進行を続ける(慢性進行性)。さらに、前記の循環障害による肺性心や合併症のほか、酸素の摂取量が不足することにより消化器をはじめとする各臓器への悪影響が及ぶ(全身疾患性)。

そして、じん肺罹患者は、病状が進行を続けた場合には肺性心により、或いは進行の途上で右の合併症を併発することにより、死亡にいたる例が少なくない。

(2) じん肺の自覚症状としては、主に呼吸困難、心悸亢進、喀痰、咳嗽等があげられ、まず前二者が初めに現れる(但し、じん肺には屡々気管支炎が合併するが、その場合には後二者が最初に認められる。)。

じん肺の診断のためには、胸部エックス線写真撮影及び肺活量検査等の心肺機能検査がなされるが、罹患している場合には、エックス線写真上、前記の各線維化の状態が、粒状影、線状影、大陰影(粒状影の融合、進展したもので、約一〇ミリメートルを超えるもの)等として認められる。

(3) じん肺法においては、粉じん作業に従事又は従事した労働者につき、そのエックス線写真及び心肺機能検査の結果に基づいて、じん肺の所見の有無及びその進度に関し、順次管理一ないし管理四の四区分のじん肺管理区分(昭和五二年法律第七六号による改正前の四条は健康管理の区分)を設け、この区分に応じて適切な健康管理等をなすべきことを規定している。

現行じん肺法上のじん肺管理区分及び昭和五二年改正前の健康管理区分において、最も重い区分である管理四と決定された者については、同法上療養を要するものとされている。そして、右療養は、必ずしも休業を伴うものだけではなく、就業しながらの治療も含まれ、その選択については医師の判断に基づいて行われるべきものであるが、医学上、休業のうえ療養に専念するのが相当と判断される場合が多い。

2原告の罹患

(一) 原告が被告作業所に勤務するまでの経緯は前認定(一の(二))のとおりである(なお、原告が陸軍造兵廠に勤務中弾丸製造作業の際に誤つて発射薬を吸入して肺浸潤に罹患したが、三か月の入院・約二年間の通院加療により、大和土建株式会社に勤める以前に完治したことは、成立に争いがない乙第一号証と原告本人尋問の結果((第一回))により認められる。)。

(二)  <証拠>を考え併せると、以下の事実が認められ、<証拠>のうちそれぞれ右認定に反する部分はたやすく措信できず、<証拠>はなんら右認定の妨げとはならないし、他にこれを覆すに足りる証拠はない。

(1) 原告は、右の大和土建株式会社の作業所においては坑外作業のほか、導坑作業にも従事した(但し、本件全証拠によつても、右各作業の具体的期間等が不明である。)のち、昭和二九年二月被告作業所に勤務したが、その当時には身体、健康に全く異常がなかつた。

その後、被告の弁天山作業所に従事中の昭和三五年ころから作業中じん肺(けい肺)症状と推測される息切れを感ずるようになつた。しかし、それが健康を害したことの異常な自覚症状とは認識できない程度のものであり、少くとも後記認定の昭和四八年八月高崎保健所の健康診断を受けるころまで、右の自覚症状を異常なものと認識することなく推移した。

そして、被告を退職後昭和三八年一〇月ころから左官店に勤めたが、昭和五〇年ころから作業中における強い息切れによつてその力仕事に苦痛を感ずるようになつたため、昭和五二年タクシー会社に肉体的負担の軽い運転手として就職したが、乗務中に激しく咳こんで追突事故を起したことから、右仕事を継続することの危険を考え、同年一〇月にタクシー会社を退職した。

(2) 原告は、遅くとも被告を退職した当時には、エックス線撮影の診断を受けていたとすれば、肺野に広く小型の粒状影が発症していることが判明する状況であつたが、特段の自覚症状はなく、右のように左官店に勤務した(稼働能力についても、この段階で幾分でも低下していたとは、とうてい認められない。)。

この間、原告が受診した高崎保健所の住民定期健康診断によれば、昭和四八年八月には、格別自覚症状はないものの、エックス線写真には心臓が左右に肥大し、肺野には左右とも約五ミリメートルの粒状影がみられ、その後も毎年の定期健康診断の際撮影されたエックス線写真においても、右症状が進展して、粒状影の範囲が広がり、大陰影が発生・拡大して塊状巣を形成するにいたつていた。しかし、専門医による診断を受けていなかつたため、じん肺との確定的な診断を得てはいなかつた。

原告は、前記の事故を起こしたことを契機として、昭和五二年一〇月二〇日に専門医のいる妙義山診療所に受診し、エックス線写真撮影に基づきはじめてじん肺に罹患している旨説明を受けた。次いで、同年一一月二二日にじん肺健康診断として各種の検査を受けその症状の内容が具体的かつ明確に診断されるにいたり、その結果に基づき、同年一二月一二日、群馬労働基準局長に対しじん肺健康管理の区分の決定を申請し、同局長から昭和五三年一月六日付けで、「エックス線写真の像が第三型でじん肺による高度の心肺機能の障害その他の症状がある(療養を要する。)。」と認められるとして、管理四と決定され、そのころその旨の通知を受けた(管理四決定の点は当事者間に争いがない。)。

(3) その後、原告の病状はさらに悪化し、昭和五五年一二月のエックス線写真においては、心臓の変形、肥大が進行し、肋膜の肥厚・癒着を伴う大陰影の拡大が認められ、昭和五八年二月におけるじん肺診断上のエックス線写真では右大陰影は区分四のcと診断されている。

そして、現在、自覚症状としては、呼吸困難、心悸亢進が著明で、ある程度歩行すると息切れがひどく、僅かの動作によつても、咳が頻発し、痰も多く、時折血痰もみられ、毎週一回定期的に通院し、強心剤、利尿剤及び鎮咳剤の投与を受けており、呼吸困難増悪時には入院治療を要する状態であり、労働は不可能である。

さらに、今後ひき続き治療を要することはもとより、症状が一層悪化する蓋然性が強い。

(4) 要するに、原告は、被告作業所において粉じんを吸入した結果、昭和三五年ころにはじん肺(けい肺)の発症があり、その後増悪を続けて、昭和五三年一月六日健康管理の区分管理四の決定を受け、さらにその症状が進行しているものである。

四  被告の責任

本訴請求は、不法行為による損害賠償請求権及び労働契約上の安全配慮義務違反による損害賠償請求権の選択的併合であるところ、まず被告の不法行為責任の点について判断することとする。

1予見可能性

<証拠>によれば、以下の事実が認められ、これを妨げるに足りる証拠はない。

(一)  じん肺、ことに本件のようにけい酸含有粉じんの吸入により生ずるけい肺は、古くから鉱山等の粉じん作業に伴う重要な職業病として知られ、発じん予防・防じん対策、健康管理等の必要性が認識されていたが、戦後、国及び産業・労働の諸団体においてその具体的方策やそのための立法化が検討され、国によつて、昭和二三年には金属鉱山労働者に対するけい肺検診が実施され、昭和二四年には、労働省通牒として、けい肺罹患者に対し、その程度に応じて、保護具の使用、健康管理、労働時間の短縮、配置転換、療養等の措置をとるべきこととする「けい肺措置要綱」が定められ(なお、同要綱は、昭和二六年、措置をより厳格にするための改正が行われた。)、さらに昭和二五年には、防じんマスクの規格化・国家検定が行われるなどの施策が本格的に行われるようになり、右の従来からの論議、研究を踏まえたうえでの立法化として、昭和三〇年九月にはけい肺等特別保護法が制定され、けい肺健診、罹患者の作業転換、転換給付・療養給付等の支給などが定められ、さらに昭和三五年には、「じん肺法」が制定されるにいたり、同法において対象が広く鉱物性粉じんによるじん肺に広げられるとともに、じん肺の予防措置として、事業者及び粉じん作業に従事する労働者は、粉じんの発散の防止及び抑制、保護具の使用等について適切な措置を講じなければならないこと、事業者は常時粉じん作業に従事する労働者に対してじん肺に関する予防及び健康管理のために必要な教育を行わなければならないことなどが規定されるにいたつた。

(二)  トンネル掘削作業は、鉱山と同様、坑内における粉じんを伴う作業であるため、そこにおけるじん肺発生の危険性は戦前から指摘されていたが、後記認定のとおり、原告が被告の作業所に従事した昭和二九年当時又は昭和三〇年ころには、坑内の粉じんに対する対策として、企業のうちには、(1)削岩時の粉じん発生を軽減させるため、削岩機の先端にフードをつけ、圧さく空気を利用して粉じんを収じん袋に捕集する収じん装置を利用することや、湿式削岩機を使用し、また、(2)発生した粉じんに対しては、その拡散を防ぐために散水を実行していた。

(三) 以上によれば、粉じん作業であるずい道掘削工事に原告を雇傭していた被告としては、原告を雇傭し始めた昭和二九年当時においても、原告が粉じん吸入によりじん肺に罹患するおそれがあつたことを予見することは十分に可能であつたものというべきであるから、労働時間等につき法規を遵守すべきはもとより、じん肺に罹患することを防止するため、粉じんの発生、吸入の防止につき可能な限りの措置を講じ、またじん肺罹患を早期に発見して作業転換を実行する等これに適切に対処するため、定期的なエックス線撮影に基づく診断を行うなどの健康管理を行うべき不法行為法上の注意義務があつたものといわざるをえない。

被告は、じん肺罹患については、各人の体質によるところが大きいから原告の発病を認識しうべき健康異常を看過した場合でなければ過失はない趣旨を主張するが、じん肺罹患の有無及び程度について体質による個人差があるからといつて、なんらじん肺罹患防止のための注意義務が軽減されるものでないから、右主張が失当であることは明らかである。

また、被告は昭和四〇年以前においては、じん肺の離職後の症状進行を予見することは不可能であつた旨主張するが、<証拠>によれば、昭和三〇年以前の医学水準において、すでにけい肺が粉じん作業離職後にも相当程度進行する例が研究者により報告されていたことが明らかであるから、被告において、少くともこれを予見すべきであつたものというべきである。

前掲乙第七号証(けい肺の治療)は、じん肺症状の進行に関して、けい肺又はけい肺結核患者について、適切な治療によつて、結核に対する治療効果をあげ得る、又はけい肺の進行を止め得る場合がある、との趣旨を述べているにとどまり、なんら前認定の妨げとはならない。

次に、原本の存在と成立に争いがない乙第一〇号証(じん肺法を審議した第三四回国会衆議院社会労働委員会昭和三五年三月二五日の政府委員の答弁中の、作業転換は、管理四或いはそれ以上の悪化を防ぐための措置である趣旨の発言)は、粉じん作業から離れても病状が進行することを否定するものではない。

さらに、原本の存在と成立に争いのない乙第九号証(けい肺等特別保護法を審議した第二二回国会衆議院社会労働委員会昭和三〇年六月八日の政府委員答弁中の、第三症度のじん肺罹患者が作業転換をすれば、原則的に第四症度に進行することがなく、結核が合併したときに第四症度になることが時々あるとの趣旨の発言)及び原本の存在と成立に争いがない乙第一四号証(昭和四〇年ころの認識としては、離職すれば進展しないが、高齢化による機能低下で高度障害ということになるのであり、器質的な動きはないだろうとの考え方であつた、旨の記載。鉱山医学会会誌第二一号)は、いずれも、納得するに足りる具体的資料に基づくものではなく、にわかに採用することができない。

そして、その他前認定を覆すに足りる証拠はない。

2被告の義務違反

(一) 前記二において認定した事実と<証拠>によれば、以下の事実が認められ、右各証言中後記認定に反する部分は措信できない。

(1) 粉じん発生の防止、抑制義務の懈怠

(イ) 原告の従事した被告の各作業所においては、昭和二八年ころにはすでに湿式削岩機を使用している企業があつた(弁論の全趣旨により認められる。)にも拘らず、当初は発じん量の多い乾式のものを使用し収じん装置等の設備もなかつたため、多量の粉じんが発生する状況であり、ようやく矢田川作業所における昭和三一年ころから湿式のものが用いられるようになつたにすぎない。

また、右湿式削岩機の水の補給が十分に行われなかつたため、水ぎれが時折発生し、いわゆる「空ぐり」による粉じんが発生し、関ケ原作業所のころになつてはじめて十分な水の供給が確保されるようになつたにすぎない。

(ロ) 爆破後の多量の粉じんの除去についても、他の企業では遅くとも昭和三〇年ころから粉じん除去手段として有効な排気装置(ブロアと呼称される。)を採用していた(この点は<証拠>によつて認められる。)のに、圧さく空気の噴出による換気を行つたのみであり、粉じん除去が極めて不十分であつた。

そして、発破後僅か五分位のちの右換気の際には坑夫が切羽のごく手前で圧さく空気噴出のためのホースの先端を押えなければならず、そのためこの仕事に当る坑夫はとくに過酷な粉じんにさらされた。

(ハ) 発破後やずり出し時に発生する粉じんを抑制するのに効果のある散水については、そのための設備もなく、全く行われていなかつた。

そして、ずり出し作業も能率をあげるために発破後の粉じんのまだ十分におさまらない約一五分後に始められていた。

(2) 体内侵襲防護義務の懈怠

(イ) 防じんの有効な保護具たるマスクについては、すでに国家検定品が市販されていたのに、平作業所の昭和二九年当時には全く支給されず(手拭いを使用した。)、その後に支給されたのも、防じん効果が低く、手入れ方法に難点のあるフェルト製のマスクであり、昭和三七年からの関ケ原作業所になつてはじめて効果の高い検定合格品のスポンジ式マスク(但し、さらに効果のよいものが存した。)が支給されたにすぎない。

しかも、右支給も、各作業所あたりおよそ各作業所毎に一個のみであり(とくに、ろ材の耐用期間はごく短期間である。<証拠>)、極めて不十分な措置であつた。

また、マスクの装着、管理(マスクを使用していく上においては、その効果の面及び耐用回数の面からして、適切な手入れが不可欠である。<証拠>)についても、単に削岩、ずり出し等の粉じんの多いときにはマスクを装着するよう指示するとか、一般的な保護具の装着を呼びかける掲示をしたりしていたにすぎず(被告の労務担当者が坑内に入つてマスク着用の有無を点検するとか、その着用を具体的指示したこともない。)、安全衛生面の向上のため各作業所におかれていた安全衛生委員会(所長をはじめとする事務職員や現場の工長により構成される。)においても、専ら事故発生防止等が主眼とされ、坑夫らが粉じんを防ぐためにマスクの着用を励行させるための有効な方策をとることもなく、坑夫らに対しじん肺罹患を防止するためには防じんマスクの常時装着、適切な管理等が不可欠であることを十分に理解するよう教育することがなかつた(被告の労務担当すらじん肺の特性、発生の機序等について特別の教育を受けてはいなかつた。)。そのため、原告も防じんマスク装着の必要性を十分理解せず、指示どおり削岩時の爆破後の換気時にしか防じんマスクを装着していなかつた。

(ロ) 原告ら坑夫は少くとも、一〇日毎に昼番と夜番が交替するときには、空白時間を短くして作業を継続して行うため、各実働一六時間労働をなし、労働基準法の制限に反する、少くとも各六時間づつ長く粉じんにさらされた。

(なお、原告は、被告が出来高給制を採用していたことにより一日一〇時間労働及び休日労働を強いて不当に長時間粉じんにさらしたことが不法行為に該る旨主張し、右のような労働時間が認められる((前認定二の3))が、原告の採用していた出来高給制((右二の3))は、原告ら坑夫と被告との合意によるものであり、特段違法、不当とはいい難いし、時間外労働及び休日労働の恒常化も、同じく双方の利益の一致((原告らにおいてはより高収入を、被告においては工期の短縮をそれぞれ希望する。))に基づく合意によるものといえるから、その主張の事由はなんら不法行為を構成するものではない。)

(3) 健康管理義務の懈怠

被告の作業所では、一応「労働基準法」、「けい肺等特別保護法」及び「じん肺法」の規定によるじん肺健康診断及び定期健康診断を実施していたけれども、その重要性を坑夫に十分理解させていなかつたことやその受診の徹底を図るための積極的、具体的措置をとらなかつたこと等のために、現実には坑夫がこれを受診しないことがあり、原告においても関ケ原作業所においてじん肺特別健康診断を一回受診したにすぎなかつた。

(二) 以上によれば、被告としては、坑内における粉じんの発生を防止するため、湿式の削岩機を使用し、あるいは収じん機を用いることにより削岩時に発生する粉じんを抑制し、爆破後はずり出しに先だつて十分な換気を行い、あるいは散水を行うことによつて、粉じんを除去するとともに、ずり出し時の発じんを防止し、またこれらによつても除去しえない粉じんの吸入を防止するために適切な防じんマスクを支給し、その装着の実効をあげるため使用方法等について安全教育を含めた適切な指示・指導を行い、法規違反の長時間労働を避け、さらに健康異常を早期に発見して病状の悪化に対処しうるよう法定のじん肺健康診断を実効のあがるよう受診を徹底して励行することなどについて、不法行為法上の注意義務を負つていたにもかかわらず、これを怠り、その結果原告をじん肺に罹患されたものといわざるをえない。

したがつて、被告は、原告に対し、不法行為による損害賠償として、原告に生じた後記損害を賠償すべき義務がある。

五  損  害

1逸失利益

(一) 原告は、原告が昭和三八年八月に被告を退職し、左官店に就職したのはじん肺に罹患していたためである旨主張し、<証拠>中にはこれにそう部分が存する。しかし、他方、<証拠>によれば、原告が被告を退職したのは上司であつた金子一次郎及び芹沢省吾との間において賃金をめぐる金銭上のトラブルが生じたことを直接の契機とするものであること及び左官店に勤務当初仕事に特段苦痛を感じていなかつたことが認められ、かつ、前認定(三、2、(二)の(1))のように少くとも昭和四八年八月高崎保健所の健康診断当時には異常な自覚症状を認識することがなかつた(前掲乙第一号証)ことなどに照らして、前記の記載及び結果部分はにわかに措信し難く、他に前記の主張を認めるに足りる証拠はない。そして、右退職の動機、左官店勤務当初じん肺による異常な自覚症状を認識していなかつた事実が、<証拠>によつて肯認できる、原告は昭和三七年に妻と結婚し翌年一月には一子をもうけていた事実を併せ考察すれば、むしろ、原告はじん肺罹患とは全く関係なく、自らの自由意思により、坑夫としての仕事の継続を断念し、出身地である高崎市に家族とともに定住するため、左官店に就職するにいたつたものと解するのが相当である。

そうすると、原告がじん肺罹患により被告を退職することを余儀なくされたことを前提として昭和三九年から昭和五二年一〇月まで原告が左官店及びタクシー会社に勤務していた期間の平均賃金と現実の収入との差額(別表一1ないし14差額欄)を逸失利益とする主張は理由がなく、また、それ以降の逸失利益の算定の基礎についても、原告主張のように原告の坑夫としての賃金を前提として全男子労働者の平均賃金額に基づいて算定するのは相当ではなく、原告が一三年余の間左官業に従事していたことに照らして、建設男子労働者の平均賃金を基礎としてこれを算定するのが相当である。

(二) 前記三において認定した原告のじん肺罹患の経緯・症状等に照らせば、原告がタクシー会社を退職した昭和五二年一〇月一七日以降は、原告は健康管理の区分管理四に相当する病状にあり、療養に専念することが相当な状態にいたつていたことは明らかであるから、遅くともそのころには、稼働能力を一〇〇パーセント喪失したものと解することができる。そうすると、賃金センサス第一巻・第一表「建設男子労働者・小学・新中学卒」による年間賃金額(同数値は当裁判所に顕著である。)による賃金水準に基づく原告の逸失利益は、別表三逸失利益額欄のとおりとなる(昭和五二年については、右年間賃金額である二〇〇万二〇〇〇円を一〇月一八日以降の残日数である七五日につき日割計算した四一万一三六九円をもつて逸失利益額と認める。)。

なお、前認定(三、2、(二)の(1))の、左官店勤務中の昭和五〇年ころから力仕事に苦痛を感ずるようになつた事実からすれば、そのころから昭和五一年中においてもじん肺罹患が原告の収入に影響を及ぼしたとみられなくもないが、その具体的な影響を認めるに足りる的確な証拠はないから、右期間中の逸失利益を算定、判断するわけにはいかない。

2損害の填補

原告が別表二の「現実に支払われた年金額」欄記載の額の労災保険金を受領していること、原告が右同一の期間厚生年金保険の障害年金を受給していることは当事者間に争いがない。また、右事実と<証拠>によれば、「厚生年金保険との調整額」欄各記載の金額は、原告において同一の事由により厚生年金保険法による傷病年金を支給されているために、労災保険金から減額されたものであることが認められる。しかるところ、労災保険金については、右調整額につき現実に支給がなされていない以上、これによつて原告の損害が填補されたものと解することはできないが、右減額による調整の趣旨に照らして、原告が「現実に支払われた年金額」欄各記載の金額のほかに、厚生年金保険の障害年金として、少くとも右各調整額と同一の金額を現実に受領していることが明らかである(被告のこの点に関する主張((坑弁5))は右趣旨を含むものと善解できる。)。そうすると、労災保険金による「現実に支払われた年金額」欄の各金額及び厚生年金保険金による「厚生年金保険との調整額」欄記載と少くとも同一の各金額とが原告の逸失利益の損害に填補されたものというべきである。

そして、これらの金額を原告の逸失利益から控除して、その残額を計算すると、別表三のとおり、一四五五万二八〇三円となる。

なお、原告が別表二の「特別支給金」を受領していることは当事者間に争いがないが、右金員は国が福祉事業として業務上の災害で負傷した者の療養生活の援護・社会復帰の促進等、その福祉増進の目的で支給するもので、損害の填補を目的とするものではないから、これを損害額から控除すべきものではないし、また、将来受給すべき労災保険金についても、未だその現実の支給がなされていないものである以上、これも損害額から控除すべきではなく、これらを損害額から控除すべき趣旨の被告の主張は失当である。

3慰謝料

前認定(三の2)の原告のじん肺罹患の経緯及びその病状のほか、病状の悪化による死亡の可能性すらあり得る(前認定三の1のじん肺の病状に照らして推測できる。)こと、さらに原告は妻と二人の子との一家の生計を維持してきた(原告本人尋問((第一回))の結果により明らかである。)ところ、その稼働能力を喪失したことにより、その生計に多大の影響を及ぼしていると推察されること、その他本件口頭弁論に顕れた諸般の事情を総合勘案すると、原告がじん肺罹患によつて蒙つた精神的苦痛を慰謝するには、八〇〇万円をもつて相当と認められる。

4弁護士費用

原告が本訴の提起・追行を原告代理人らに委任し、その報酬として認容額の一割相当額を支払う旨約したことは弁論の全趣旨によりこれを認めることができ、右委任は本件事案に鑑み権利行使のためやむをえないものと認められるところ、本件事案の難易、請求額その他諸般の事情を考慮して、本件不法行為と相当因果関係にたつ損害として二〇〇万円を被告に請求しうべきものとするのが相当である。

六  時効の抗弁について

1原告が当裁判所に本訴を提起した日が昭和五五年一二月二三日であることは、本件記録上明らかである。

2被告は、原告が被告に対しじん肺管理区分決定の申請のための粉じん作業職歴証明書の交付を受けた昭和五二年一一月八日をもつて不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効を起算すべきである旨主張する。

そして、原告が昭和五二年一〇月二〇日に専門医によりはじめてじん肺といわれてから群馬労働基準局長から健康管理の区分管理四の決定を受けるまでの経緯は前認定(三、2、(二)の(2))のとおりであり、この間同年一一月八日に被告から労働者災害補償保険手続のための粉じん作業職歴証明書の交付を受けたことは<証拠>によつて明らかである。

ところで、消滅時効開始の要件である「損害を知る」(民法七二四条)とは、損害賠償請求権の行使が可能な程度に具体的資料に基づいて損害を認識することを要すると解すべきであり、右の意味での損害の認識ありとするには、単に自己がじん肺に罹患したことを知るのみでは足りず、その疾病の状態・程度等を専門医等の診断に基づいて正確に認識した場合であることを要するところ、原告が右認識を有するにいたつたのは、前認定のとおり原告が昭和五二年一一月二二日に妙義山診療所において、じん肺管理区分決定のための各種のじん肺健康診断を受け、その症状等が具体的かつ明確に診断され、その結果健康管理の区分管理四と決定されたことを知つた昭和五三年一月六日ころと解され、被告主張の時点において、すでに右認識を有するにいたつたものとはいえないから、被告の右消滅時効起算点の主張は失当であり、本訴は民法七二四条前段所定の短期消滅時効期間の経過内の提起であることは明らかである。

なお、原告は、進行性の疾患であるじん肺については、損害の進行が止む死亡時までは、損害を知つたとはいえない旨主張するが、消滅時効の要件たる「損害を知る」とは、損害の一部を知つたときには、これと牽連一体をなす損害であつて、その当時において将来その発生を予見できるものについては、その全部を知つたものとして、その消滅時効も進行すると解すべきところ、原告の健康管理の区分管理四決定後の病状の進行は、前認定(三の1)のじん肺の病像に徴して、当時においても予見可能なものであつたと認めるのが相当であるから、現在までのすべての損害について時効が進行を開始するというべきであり、原告の右主張は採用することができない。

七  除斥期間の抗弁について

被告は、本訴提起二〇年前の行為に基づく不法行為責任については、民法七二四条後段の期間経過により消滅している旨主張する。

しかるところ、前認定(一の2、二、四の2)のとおり、原告は昭和二九年から昭和三八年までの間被告の六か所の作業所において、各作業所ごとの雇傭契約に基づくものであつても、右期間中一貫して被告の作業所において稼働し、その従事した作業はいずれもずい道掘削工事という同様の粉じん環境下におけるものであること、さらに被告においても、原告の就業した各作業所を通じて、じん肺罹患の防止措置の懈怠という注意義務違反を継続してきたものであることからすると、原告が被告の各作業所において従業した全期間を通じて継続した一個の不法行為を構成すると解するのが相当であり、したがつて民法七二四条後段の期間については、その最終期日である昭和三八年八月から起算すべきであり、右期日から本訴が提起された昭和五五年一二月二三日まで二〇年間を経過していないことは明らかであるから、被告の右主張は失当である。

八  寄与率の抗弁について

被告は、原告のじん肺罹患は昭和二四年ころから昭和二九年まで他の会社においてずい道掘削作業に従事していたこともその原因となつているので、被告の賠償額算定にこれを斟酌すべきである旨主張し、原告が昭和二四年から昭和二九年まで大和土建株式会社の坑内及び坑外作業に従事したことは前認定(一の2)のとおりであり、原告本人尋問(第一回)の結果によれば、右坑内作業においては、防じんマスクの支給がなく、殆んどの期間乾式削岩機を使用し、散水をせず、かつ、労働時間も被告と同様であつて、粉じんに曝露されたことが明らかである。しかし、前認定のとおり、原告が被告の作業所での稼働を始めた昭和二九年当時、原告にじん肺による健康障害はみられなかつたこと、被告の各作業所における粉じんの実態、稼働期間等に徴すると、原告のじん肺罹患が被告の各作業所における就労と因果関係を有することは明らかであり、かつ、本件全証拠によつても、右大和土建で坑内作業の期間が不明であり、また前認定以上にその労働実態が明らかでないこと等に鑑みると、被告主張のように、他の企業における粉じん吸入がじん肺罹患の原因となつているときに、これを斟酌して損害賠償を減額すべき場合があると解したとしても、本件においては、損害賠償額算定に右大和土建における粉じん曝露を斟酌するのが相当であるとはとうてい解しえないから、被告の右主張は失当である。

九  過失相殺の抗弁について

被告は、原告が被告の作業所において就労していた際に有効な発じん・吸じん防止を行わず、また退職後も十分な健康管理を行わなかつたなどの過失がある旨主張する。

しかしながら、粉じん作業における粉じん対策が一次的には被告においてこれを講ずべきものであるところ、被告には前認定(四の2)のような注意義務の懈怠のあつたこと、原告は被告の指示にしたがつて防じんマスクを装着していたことは前認定(四、2、(一)、(2)の(イ))のとおりであること、原告が削岩に際して時折湿式削岩機で空ぐりすることがあつたことは前認定(四、2、(一)、(1)の(イ))のとおりであるが、右は被告における湿式削岩機への給水体制の不備と、じん肺教育の不徹底に起因するものと解することができることなどの事情に照らすと、原告に、粉じんの発生・吸入の防止について過失相殺に供すべき落ち度があつたものとは解しえないし、また退職後の健康管理についても、被告の主張するように昭和五〇年の健康診断の受診の際に痰の提出をしなかつた等の不十分なところがあつた(この点は<証拠>により認められる。)としても、右は一般の住民健康診断にすぎず、これがじん肺の進行にいかなる影響を与えたものかなんら明らかではないから、これをもつて過失相殺すべきものとはとうてい解しえないところであり、したがつて、被告の過失相殺の主張は失当である。

一〇  結  論

以上判示したところによれば、原告の本訴請求は、(1)逸失利益金一四五五万二八〇三円(昭和五二年から昭和六七年までの逸失利益から、労災保険金、厚生年金保険金を控除したもの)、(2)慰謝料金八〇〇万円、(3)弁護士費用金二〇〇万円の合計金二四五五万二八〇三円及び右(2)(3)に対する本訴状送達の日の翌日である昭和五六年一月二〇日から、右(1)に対する請求の趣旨変更の申立書送達の日の翌日である昭和五九年七月二五日から、各支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条を、仮執行の宣言(但し、訴訟費用の点についてはこれを付さないのが相当である。)につき同法一九六条を、それぞれ適用し、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官山之内一夫 裁判官佐村浩之 裁判官島田周平は、転補のため署名押印することができない。裁判長裁判官山之内一夫)

別表一

年齢

賃金センサス

による金額(A)

原告の現実

収入額(B)

差額(A)-(B)

遅延損害金

1

昭和39年

39

474,000(円)

228,920(円)

245,080(円)

40.4.1~完済まで

2

40年

40

580,800

305,000

275,800

41.4.1~完済まで

3

41年

41

626,400

333,200

293,200

42.4.1~完済まで

4

42年

42

872,800

378,300

494,500

43.4.1~完済まで

5

43年

43

1,031,000

447,900

583,100

44.4.1~完済まで

6

44年

44

1,151,100

443,300

706,800

45.4.1~完済まで

7

45年

45

1,349,100

605,200

743,900

46.4.1~完済まで

8

46年

46

1,517,100

725,400

791,700

47.4.1~完済まで

9

47年

47

1,716,000

905,100

810,900

48.4.1~完済まで

10

48年

48

2,110,200

974,900

1,135,300

49.4.1~完済まで

11

49年

49

2,593,700

1,320,300

1,273,400

50.4.1~完済まで

12

50年

50

3,049,600

1,482,550

1,567,050

51.4.1~完済まで

13

51年

51

3,188,400

1,616,500

1,571,900

52.4.1~完済まで

14

52年

52

3,494,200

1,797,068

1,697,132

53.4.1~完済まで

15

53年

53

3,682,600

3,682,600

54.4.1~完済まで

16

54年

54

3,827,900

3,827,900

55.4.1~完済まで

17

55年

55

3,445,300

3,445,300

56.4.1~完済まで

18

56年

56

3,658,900

3,658,900

57.4.1~完済まで

19

57年

57

3,860,500

3,860,500

58.4.1~完済まで

20

58年

58

3,860,500

3,860,500

59.4.1~完済まで

21

59年~67年

59~67

3,860,500

)×6.589新ホフマン

合計25,436,834

合計 59,962,297円

別表二

期日

期間

年金額

厚生年金保険

との調整額

現実に支払わ

れた年金額

特別支給金

53.3.31

まで

52.11.22~

52.11.24

(事業主負担金)

22,484

22,484

55.3.31

まで

52.11.25~

54.5.31

(休業補償給付)

3,107,860

3,107,860

1,035,769

56.3.31

まで

54.6.1~

55.7.31

(同上)

2,677,700

2,677,700

513,678

55.8.1~

55.10.31

(傷病補償年金)

642,650

154,240

488,410

123,282

55.11.1~

56.1.31

57.3.31

まで

56.2.1~

56.4.30

154,250

488,400

123,275

56.5.1~

56.7.31

56.8.1~

56.10.31

(同上)

682,800

163,875

518,925

131,000

56.11.1~

57.1.31

58.3.31

まで

57.2.1~

57.4.30

57.5.1~

57.7.30

57.8.1~

57.10.31

57.11.1~

58.1.31

59.3.31

まで

58.2.1~

58.4.30

58.5.1~

58.7.31

58.8.1~

58.10.31

(同上)

745,925

179,025

566,900

143,100

58.11.1~

59.1.31

59.12.31

まで

59.2.1~

59.4.30

59.5.1~

59.7.31

別表三

逸失

利益額

填補額

前年残額に対する4月1日から翌年3月31日までの損害金

残額(翌年4月1日現在)

昭和

52年

411,369

22,484

388,885

53年

2,144,700

19,444

2,533,585(388,885+2,144,700)

19,444(損害金)

54年

2,282,300

3,107,860

126,679

1,854,148

(2,533,585+19,444+126,679+2,282,300-3,107,860)

55年

2,290,800

3,963,000

92,707

274,655

(1,854,148+92,707+2,290,800-3,963,000)

56年

2,355,200

2,650,900

13,732

-7,313

(274,655+13,732+2,355,200-2,650,900)

57年

2,502,000

2,731,200

-236,513

(-7,313+2,502,000-2,731,200)

58年

2,502,000

2,857,450

-591,963

(-236,513+2,502,000-2,857,450)

逸失利益額

填補額

現価(昭和59年当初の現価)

昭和59年

2,502,000

1,491,850

961,965(ホフマン係数0.9523)

60年~64年

2,306,200

9,642,683(〃4.1812)

65年~67年

2,117,000

4,540,118(〃2.1446)

逸失利益総額=-591,963+961,965+9,642,683+4,540,118=14,552,803

(注)

1 昭和52年から昭和58年までの逸失利益については、原告が請求する翌年4月1日以降の損害金を算出し、これと逸失利益に填補額を充当して残額を算出

2 昭和59年から昭和67年までの逸失利益については、逸失利益額(昭和59年については填補額を控除)にホフマン係数を乗じて昭和59年当初の現価に換算

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